出願・公開時と登録時の特許請求の範囲の比較
特許請求の範囲は、権利範囲となることから、通常できるだけ広い権利が取れるように努力します。あまり広い範囲で請求項を作成した場合は、公知な技術も請求項の範囲に含まれてしまって、特許要件を満たさなくなるため、公知な技術(例えば、下図の先行技術1)が含まれず、進歩性も主張できるような範囲で請求項を記載します。出願公開は出願から原則で18ヶ月後に行なわれますが、まだ審査を経ていないために、出願時の書類とその内容が殆ど変わらないものが大半です。
審査請求後には、審査官の判断で拒絶理由通知が行なわれますが、その中には通常引例(下図の先行技術2、3)が含まれます。最初に先行技術1を回避しながら出願しても、拒絶理由なしで直ぐ特許になる場合よりもむしろこの中間処理の段階で拒絶理由を受ける方が通常のプロセスなります。これはなるべく広い権利を意図するために、ぎりぎりのところで権利化を図る必要があり、逆に言うとあまり狭めた特許請求の範囲で権利化しても、権利行使の段階で困ることがあるからです。
引例が出されたところで、これらを回避すれば特許を取得することができます。下図では、先行技術2、3を回避して特許請求の範囲が狭くなってしまいますが、これで特許査定が得られればその権利範囲内の技術を独占することができます。特許査定に応じて特許公報が発行されますが、こちらが権利の内容を示すものとなります。公開公報の特許請求の範囲と特許公報の特許請求の範囲を比べた場合、その範囲が狭くなっていることも少なくないため、よく警告状の基礎となる明細書が公開公報に過ぎない場合などがありますが、その場合には、警告状の内容をいくらか割引いて考えることもできると思われます。
請求の範囲の用語と権利の広さの関係
では、特許請求の範囲を広くするとか狭くするということはどういうことでしょうか?特許請求の範囲はそこに記載された言葉で決められていく性質ものですので、限定する言葉が多い場合には権利は逆に狭くなります。例示すると単に“自動車”と言うカテゴリーの範囲と“白い自動車”と言うカテゴリーの範囲では、“白い”の限定の部分だけ、狭い権利範囲を示していることになります。また、一般には読み難い特許請求の範囲の中には、構成要件というものがいくつか存在します。このような構成要件を加えた場合でも、権利範囲は狭くなることになります。
拒絶理由通知に対して意見書や補正書を提出するということは、このような請求の範囲の広さを調整して、先行技術と差別化する作業をすることになります。この部分が匙加減の必要なところで、1回の補正では調整できず、2度や3度、さらには審判まで利用しながら最終的な調整を行なうことも少なくありません。